千葉さんの書籍に感銘を受けた私は、彼が開催している講習会に参加することにした。
会場は、自宅から新幹線と電車を乗り継いで行く街にあり、午前9時からはじまるその講習会には到底間に合わない。
そこで、会場に近いホテルに前泊することにした。
新幹線とセットになっているパッケージプランで予約するホテルは、会場に近いというより、「自宅に比べると近い」と記述する方が妥当だが――。
講習会前夜――。
ホテルに到着した私は、翌日のプランを立てるべく、さっそく会場までの所要時間を調べた。
すると、電車で約1時間半掛かることが判明し、明日は時間に余裕を持って7時に部屋を出発しようと、早々にベッドに入った。
しかし、緊張のあまり寝付けず、やっと眠りに付いた矢先、今度は早朝の5時に目が覚め、結局、出発までの時間を持て余した。
時間が経つにつれ、緊張感はさらに増したが、前日買っておいたコンビニのおにぎりをペロリと平らげ、予定時刻の7時に部屋を出た。
次いでホテルから出ると、ポツポツ降りの天氣雨だった。
予報では降水確率0%だったのに…、と疑問に思ったが、念の為家から折り畳み傘を持参していたので、それを取りに部屋まで戻ることにした。
これで数分遅れたが、時間に余裕を持たせていたので、さほど慌てなかった――。
電車の中で、私は、尊敬する千葉さんに会える喜びと、前夜からの緊張感とで、心拍数がいささか上がっていた。
そのとき――。
電車が急ブレーキを掛けて急停車した。
なにごとかと当惑していたら、車内アナウンスで、人身事故のためしばらく停車するとのことだった。
心待ちにしていた講習会を控えていた私は、焦燥感に駆られた。
はじめて参加する講習会で、正当な理由があるとはいえ、遅刻という失態を犯したくない――。
・・・それから15分くらい経っただろうか。
電車がようやく動き出した。
と思ったら今度はなんと、逆方向へ走り出した。
追って、前の駅まで戻るので、向かいのホームに停まっている電車に乗り換えるよう、車内アナウンスが流れた。
講習会への参加が絶望的になったと悲観していた私は、動き出した電車にひとまず安堵した。
この時点で、時間的には「かろうじて間に合うか」というくらい。
電車が前の駅まで緩やかに進む間、私はドアの前まで移動し、スムーズに乗り換えができるよう待機した。
さあ、前の駅まであと少し、乗り換えの電車が見えている。
と、そのとき。
またもや急ブレーキが掛かり、電車がストップした。
その間、あろうことか、乗るはずだった電車が発車してしまい、私の目の前を通過してしまった、、、。
・・・こうして私は、電車が出た後の、もぬけの殻状態のホームに降り立った。
ダイヤは乱れ、次の電車の到着時刻は不明のままだ・・・。
「人生のサイン」というものを理解していた私は、そのとき、その状況が、講習会に参加することへのNOサインである可能性を疑った。
「もしかしたら、怪しい講習会かもしれない…」
しかし、次の電車は予想以上にはやく到着した。
もしこれが30分も遅れていたら、NOサインと見なし、ホテルへ引き返していただろう。
・・・そんな状況を乗り越え、私は、目的の駅にようやく辿り着いた。
会場へは駅から徒歩10分ほどだが、道順は単純だ。
・・・そう想定していたにもかかわらず、今度はその単純な道順を、私は見事に間違えた。
徒歩10分のはずが、ひたすら歩き続けても、一向に会場に辿り着かないのだった・・・。
こうして、指折り数えて待った講習会に、私は大幅に遅刻した。
これ以降、この初日に起きた、NOサインとも受け取れる重大な出来事が、頭の中の消えない記憶となった――。
つづく