大幅に遅刻してしまったが、会場に無事辿り着くことができた。
私は、会場のドアの前で受付の後処理をしている女性(千葉氏の側近)に事情を説明し、講習会への参加をお願いした。
彼女は、笑顔ひとつ見せず無表情のままだったが、すんなりと了承してくれ、私は、参加費の3500円を払って領収書を受け取った。
その間、私の全身は千葉さんに会える喜びと期待に満ち溢れていた。
「ドアの向こうに千葉さんがいる」――。
既に、ネットで彼の顔は把握している。
直接対面した彼を、「すごいオーラだった!!」と絶賛したブログもチェック済みだ。
私は、緊張で硬くなった手を伸ばし、どれだけ眩しいんだろうと、期待しながらドアを開けた・・・。
しかし――。
彼は曇っていた。
というのも、コントラストが弱く、ダークグレーの「もや」に包まれているように見えるのだ(私には霊能力はないが、コントラストの強弱を視覚的に感じるときがある)。
しかし、今はそう言語化できるが、当時は「霊格がお高い方」というバイアスが掛かっており、それを、「予想とは異なるオーラ」としか捉えられなかった・・・。
・・・いや、違う。
当時の私は、「自分がどう感じるか」に、目を向ける習慣がなかった。
肝心な「自分の心の声」をないがしろにし、人の意見を鵜吞みにする性格だったのだ――。
なにはともあれ、待ち望んでいた講習会を受講する瞬間がついにきた。
これで、魂を浄化することができるなら、染矢先生との縁が進展するかもしれない――。
30人ほどの参加者たちは、既に「わ」になっていて、椅子に腰掛けたまま、精神統一するためのストレッチをしていた。
同時に千葉さんは、しきりに「わの中心」に意識を向けるよう指導していた――。
では、ここから、「悪口に聞こえるかもしれない事柄」を書き連ねる。よって、「これは悪口ではなくて客観的事実です」と予防線を張っておこう。
講習会での千葉さんのスピーチは…、そのときには熱心に拝聴したものの、今振り返ると、ありきたりなものばかりだった。
さらにその中には、体型を揶揄するような場面さえあった。
近年よく取り沙汰されるルッキズムだ。
しかし、バイアスって本当に恐ろしい。
彼がどんなに稚拙な発言をしようと、「秀逸な書籍を執筆した人」という先入観は堅固で、参加者にとっては、千葉さんの存在そのものが絶対的だった――。
1時間ほどで休憩時間に入った。
私は以前から、霊能者である彼に質問したいことがあった。
もちろんツインのことだ。
まずは、ツインの記憶が降りてきた現象を説明し、最近起きた不可解な出来事に対してもアドバイスをもらおう。
私は彼のもとへ行き、軽くはじめましての挨拶をした。
次いで、
「最近不思議なことが重なっているんですけど・・・」
と続けた途端、千葉さんは露骨にムッとし、私の話を遮るように、そして呆れた顔でこう言い放った。
「最近はそんな人多いよ」――。
ようするに、あなたの霊能力は大したことない、と。
つまり私が、自分に起きた怪奇現象を「誇示している」と解釈したようだった・・・。
重大なNOサインにルッキズム、論点が合わない違和感・・・。
これだけ懐疑的な要素が揃っているのに、私の彼に対する敬意はまるっきり揺らがない。
それどころか、遠回しではあるが、「この講習会に参加すると運が上がりますよ」と吹聴する千葉さんに、私はどんどん引き込まれていった――。
つづく