この物語はノンフィクションですが、個人や団体の特定を避けるための工夫を施しています。
ご理解の程、よろしくお願いいたします。
きっかけは、私に起きた怪奇現象だった――。
私には、「早紀ちゃん(仮名)」という高校時代からの友人がいた。
基本的に、相手が誰であってもベッタリした付き合いを好まない私が、彼女とは馬が合い、20代の頃は月一ペースで飲みに行ったものだ。
早紀ちゃんは、私の周りでは一番と言ってもいいくらいスマートで、頭の回転の速さからくる冗談が最高におもしろかった。
しかし、毒舌なのもまた一番で、しばしば私の家族への揶揄さえあり、我慢を要することが多かった。
なにはともあれ、30代に差し掛かった頃、彼女の、私に対するいつもの嘲笑がきっかけとなり、結果として、それまでの彼女の放言への怒りを、私はストレートにぶつけることになった。
早紀ちゃんは後日、私以外の数人にも同様の指摘を受けていたとメールで吐露し、そうして私たちは和解したものの、それからなんとなく距離を置くようになり、10年近い歳月が経過したのだった――。
2011年――。
ケータイに早紀ちゃんからの着信が入っていることに驚いた私は、折り返し彼女に電話して緊張氣味に尋ねた。
「久しぶり!どうしたの?」
彼女は最初、なんのことだか理解できずにいたが、話しているうちに、彼女の2歳になる赤ちゃんがケータイを触り、「偶然に」私に繋がったことが判明した。
早紀ちゃんはあれから結婚し、春奈ちゃん(仮名)という子供を設けていた。
久しぶりにお互いの近況を語り合った私たちは、次いで、「会おう」ということになり、後日、早紀ちゃん1人で、私の1人暮らしのアパートに遊びに来ることになった。
春奈ちゃんは、旦那さんが見てくれるのだという。
当日――。
酷暑だったその日、私は、早紀ちゃんへのお土産として焼いたカップケーキを冷蔵庫に入れ、待ち合わせ場所として指定した近くのコンビニへ向かった。
早紀ちゃんは旦那さんの運転する車で到着し、チャイルドシートの春奈ちゃんと並んで後部座席に座っていた。
私が車に近寄ると、彼女は窓を開けて「久しぶり!」と笑顔で挨拶し、続けて、「開花ちゃん(私)にだけは春奈を会わせておこうと思って…」と私におべっかを使うように、そして視線をそらしながらそう言葉にした。
その、歯の浮くような私へのおだて方は、ここに到着するまでの間、旦那さんに私の悪口を吹聴していた様子を伺わせた。
しかし、そんなことは以前からすでに常態化しており、慣れている私は、旦那さんに軽く挨拶し、車から降りてきた早紀ちゃんをアパートへと案内した――。
ちなみに、私がここでどのように述べても、所詮、我田引水と思われかねないのは承知の上だ――。
「偶然の出来事」がきっかけで果たした、数年ぶりの再会。
20代の頃、話しても話尽きない程にいろんなことを語り合った私たち。
そして今回も・・・と、期待に胸を膨らませていたのだが、早紀ちゃんと実際会話を交わすと、なにかこう・・・波長が合わなくなっていることに私は少し戸惑った。
それどころか、春奈ちゃんのお世話で疲労困憊なのだろう。彼女の口調は、以前よりもさらに激しくなってさえいたのだった、、、。
とはいえ、話題は、近況や思い出話はもちろん、「人生のサイン」にまで及び、尽きることはなかった。
その頃の私は、「人生にはサインというものがある」と認識しはじめていた。
それは、有縁無縁を告げるもので、事が順調に進まない事象は、縁がないという意味の「NOサイン」だと、理解しはじめていたのだ。
だが、そんなことを早紀ちゃんに伝えてもキョトンとするばかりで、私たちはいくぶん折り合いが悪いのだった・・・。
その雑談中――。
私たちはテーブルを挟んで向かい合わせに座り、私の手料理を食べながら会話を交わしていたのだが、なぜか体が次第にだるくなり、座っているのさえキツい。
当惑した私は、途中何度か横になっていいか断ろうとしたが、彼女に本心をさらけ出せない氣質は健在で、結局耐えることにした。
ついでながら、この現象の意味が明らかになったのは、随分あとだ。
私は、ご飯を食べ終わってもなお、その状態で話し続け、そして夜になり、早紀ちゃんを車で彼女の自宅まで送り届けることになった――。
その車の中で、たった今まで通常モードだったはずの早紀ちゃんが、突然、些細なことで怒りはじめた。
彼女は、20代の頃から少しも成長していなかった・・・。
私はそんな彼女に辟易するも、パンチングバッグになるのもまた慣れっこで、そうしているうちに私たちは、彼女の自宅前に辿り着いた。
早紀ちゃんは憤ったまま車を降り、強い口調で「じゃあね!」と吐き捨て、助手席のドアを叩きつけるように激しく閉めた。
私たちは、20代の頃と変わらぬ様相を呈することになった――。
繰り返すが、私がここでどのように述べても、所詮、我田引水と思われかねない――。
正常性バイアスが働いている私は、彼女のそんな態度を氣にも留めず、車を自宅へ向けて発進させた。
時刻は、夜8時を回っていただろうか・・・。
それは、彼女を降ろした後、車を1~2分走らせたときに突然氣付いた――。
つづく