早紀ちゃんを自宅まで送り届け、車を1~2分走らせた頃、私は異変に氣付いた。
私が座っている運転席の左後ろ上部に、「なにか」がいるのだ。
目視できない「なにか」が。
それは、この世のものとは思えない程の「究極の憎悪感の塊」のようなもので、それが、おぞましい形相で私をにらみ付けている・・・というふうに感じる。
狭い車中で、為す術がなっかった私は、その状態のままアクセルを踏み続け、とにかく早急に車を自宅まで走らせた・・・。
が。
結局その塊は家の中まで追って来た。
焦った私は戦慄し、それでも、テーブルの上に放置したままだった使用済みのコップを大急ぎで食洗器に入れるのだが、そのときもなお、「得体の知れないなにか」は、左後ろの上部から私を刺すようににらみ付けている。
と、そのとき――。
バチバチッ
と大きな音がした。
ビクッとして恐る恐る振り返り天井を見上げると、9つあるスポットライトのうち、1つの電球が消えていた。
その音で平常心を失った私は、それからの記憶が曖昧なくらい、超特急でベッドに入った。と言うより、布団の中に避難したのだった・・・。
この時点で私は、スポットライトの電氣が消えたのは、電球の球切れが原因だと思っていた――。
・・・一夜が明けた。
ベッドから起き上がり、寝室を出ると、前日私を追って来た「得体の知れないなにか」は完全に消えていた。
思考がまとまらないまま冷蔵庫を開けると、お土産に焼いたカップケーキがそのままになっていて、早紀ちゃんに渡すのを忘れてしまったことに氣付いた。
と同時に、その「得体の知れないもの」がなんだったのか、私はそれ以降、頭を悩ませることになった・・・。
加えて、球切れが原因で消えたと思っていたスポットライトは、日が経つにつれ、あのときの大きな音と共に壊れたのだと、「得体の知れないなにか」によって破壊されたのだと理解するようになっていった・・・。
私は恐怖におののいた。
それと並行して、早紀ちゃんと共に1日を過ごす中、彼女の言動を稚拙に感じ、それに困惑している自分についても客観的な視点で認識できるようになり、「これからも彼女と付き合い続けたいか」の問いに、躊躇するようになっていったのだった・・・。
私は悩み抜いた末、最終的に、早紀ちゃんとの縁を絶とうと決心した。
そうして数ヵ月後、彼女からのお誘いのメールに、遠回しにお断りした・・・のだが・・・。
その直後、彼女から「失言したのならごめん」と狼狽した内容の返信が届き、しかし私はそれ以上の返信はせず、そうやって私たちの縁は、完全に絶たれた――。
確かに、「得体の知れないなにか」は怖かった。
けれども、それと同じくらい心に引っ掛かったのは、早紀ちゃんと向かい合わせに座っていたときの倦怠感だ。
体調不良ではなかったであろう自分を思い返すと、当時はまったく腑に落ちず、とにかく疑念に駆られるばかりだった――。
早紀ちゃんと数年ぶりに、しかも春奈ちゃんを介して「偶然に」連絡を取り合い、そして縁が切れた。
しかし実際は・・・。
それが真理ではない。
私たちは、縁を切るために「必然的に」連絡を取り合ったのだ。
さらに言えば、春奈ちゃんがケータイを触って私に繋がった時点で、もうすでに縁が切れていたのだ。
もともと私たちは、同質結集の法則(同じ波動の人や事柄が引き合う法則)によって友達になった。※類友ともいう
ところが、会わなかった数年で、私と早紀ちゃんの波動のレベルに差異が生じ、修復できない度合いになったとき、私たちは同質結集ではなくなって、それを具現化するために「必然的に」連絡を取り合うことになった。
これが真理だ――。
当時はそんなことも露知らず、奇跡にも近い偶発的な出来事に、私はただただ舌を巻いていた――。
つづく