福田さんのサロンへ通っていたある日、私は、彼女とランチに行くことになった。
彼女はフラダンス教室に通っていて、そこで知り合った「スピリチュアル好きの人」とのランチに、私を誘ったのだ。
それまでの福田さんの言動に、ほんの僅かなしこりが残っていたからか、私は一瞬身構えたが、すぐに承諾し、当日、指定されたイタリアンカフェへと向かった――。
待ち合わせ時間より15分前に到着した私は、そのまま車中で待機することにした。
すると、そのすぐ後に福田さんが到着し、それに追従して彼女の知人の「大隈さん(仮)」も到着し、結局、私の予想よりもはやくメンバーが出揃った。
私たちは一斉に車を降り、軽く挨拶し合うと、そのままカフェの中へと足を踏み入れた――。
福田さんも美人だが、大隈さんもまた端麗で、私はいささか居心地が悪かった。
サラダとパスタが運ばれくると、それまで雑談ばかりしていた彼女たちは、ポツリポツリと、いわゆる「スピ系」の話をしはじめた。
それは、輪廻転生や波動についてで、私がこれまで、公の場では絶対に口にしなかったものばかりだ。
あまり社交的ではない私が、初対面の人との関わりで、生まれてはじめて新鮮な氣持ちに包まれた。
次いで、それまでの静観を破り、その会話に徐々に参加するようになった・・・のだが・・・。
私がなにかを語ろうとすると、福田さんはそれを遮るようにトイレに立った。
そのまま初対面の大隈さんと、当たり障りのない話をして場を持たせた。
福田さんが戻ってきた後、私が新たな話題を持ち掛けようとすると、福田さんはそれを遮るようにして別の話題を持ち掛けた。
正常性バイアスが働いているとはいえ、私は複雑な心境になった。
・・・とそのとき、突然、私の中に「誰かの怒り」が忍び込んできた。
当初私は、それを自分の感情だと捉えていた。
しかし、そう理解していることに対して次第に違和感が増し、それが自分以外の、つまり他者の怒りだと直観したのだ。
追ってその怒りが、「苛立ち」の域を超越し、じわじわと「爆発寸前」の状態に変化していった。
私は自分の状況が把握できず、動揺した。
しかし数十秒程で、その感情が、向かい側に座っている福田さんのものだと確信した。
彼女に目をやると、うつむき加減で平然とパスタを食べているが、その表情は、確かに怒りが滲んでいるようにも見受けられる――。
そんな出来事から数日間、私は、福田さんの怒りの矛先が、私に対してだったのか、それとも育児ストレスなのか、さらに、これから彼女とのお付き合いをどう続けるか…等々、悶々と考える日々が続いた。
そうして悩み抜いた末、最終的に私が出した結論は・・・。
「福田さんのことを『いい人だ』と自分に言い聞かせよう」というものだった(苦笑)。
言い訳をさせてもらえば、その頃偶然(それとも必然的に?)読んだ本に、「人間関係で悩んだときは、相手をいい人だと自分に言い聞かせましょう」と書いてあったのだ、、、。
それを真に受け、それまでの福田さんに対し、さまざまな不快な感情を抱きながらも、私はこんな滑稽な結論に至ったのだった、、、。
ということで私は、自宅でお皿を洗いながら、
「福田さんはいい人!福田さんはいい人!」
と、断言するように声に出し、呪文のように自分に言い聞かせた(イタイなーー私)。
すると突然、
「違う!!」
という女性の声がした。
本来だったらそこで、一瞬にして震え上がるところだが、私はその瞬間、ハッ!と我に返ったのだ。
その声に戦慄が走ったのではなく、
「そうか! 福田さんはいい人じゃない!」
「いい人であるわけがない!」
と、自分の本心を把握することができたのだ。
・・・そうして私は、スマホのアドレス帳から福田さんの電話番号を削除して、彼女と完全に縁を切った――。
ところで、私はここ数年、友人と決別する事態が重なっているが(早紀ちゃん、そして話が前後するが 知恵)、ネットでケータイ番号の変更方法を何度検索しても、探し求める情報がヒットせず、釈然としない日々を送っていた。
さらに今回、福田さんとの縁も絶つことになり、再度ネットでその旨を検索すると、今度はあっさりと、「事務手数料2000円で可能(当時)」ということが判明し、私はその足で、大急ぎでキャリアショップに直行したのだった。
もしも、友人たちと決別した時点で電話番号を変更していたのなら、以降、福田さんからの連絡に困り果てただろう。
この、完璧なタイミングで電話番号を変更できたことに、私は今、心から感謝している。
しかし、あの女性の声は一体誰だったんだろう・・・。
その、声で喝を入れてくれた女性にもまた、私は心から感謝している――。
つづく