なにかが憑依して美恵子さんに失言する。
そんな自分に疑心暗鬼になり、思い悩む日々が続いた。
そんな折、美恵子さんが妊娠した――。
もちろん、兄夫婦にとっては待望の妊娠だっただろうし、報告を受けた両親もまた、喜色満面だった。
一方私は、新たな家族が増える喜びよりも、自分に起きる不可解な現象に心を煩わせ、今後、兄夫婦と接するときの対処法について頭を悩ませていた。
そんな中、つまり美恵子さんの妊娠中に、いとこの結婚式で、兄夫婦が帰省してくることになった。
なにかが憑依する謎も解明できないまま、兄夫婦と顔を合わせることになった私は、媚びを売るのではなく、結婚式ではとにかく美恵子さんに笑顔で接そうと、心構えをした。
当日――。
披露宴で、私たち一家に用意された丸テーブルにはネームプレートが並んでいて、私の左隣は美恵子さんが座ることになっていた。
着席し、とにかく無事終わることばかりを念頭に置き、笑顔で何度か美恵子さんに話し掛けたのだが・・・。
美恵子さんは、私への返答を避けるべくバックからスマホを取り出し、自分の母親に電話を掛けて、泣きそうな声で「とにかく(失言されても)頑張るから」と言葉にし、私への嫌悪感をあらわにした。
さらに椅子を、彼女の左隣に座っていた兄の方へ移動させ、体を完全に兄の方へ向け、私を徹底的に避けたのだった・・・。
私は美恵子さんを憤慨させたのだ。
当然と言えば当然だった、、、。
さらに兄も、その結婚式の間中、美恵子さんをかばうようにして私を避けた。
兄の言い分を勝手に解釈すれば、一番大事なのは「赤ちゃん」で、母体である美恵子さんに、負担を掛けたくなかったのだと思う――。
そうやって、私と兄夫婦の間には、修復できないほどの深い亀裂が入った。
それから数か月間、私は深い悲哀に覆われた。
朝、起きるのが辛いくらい、心身ともに重かった、、、。
数か月後、姪が生まれた。
しかし――。
姪には疾患があった。
それからというものの、兄たちは名医探しに奔走し、姪は、健康を取り戻すつい最近まで、小さな体で何度も手術を受けた。
私は、いとこの結婚式以降、あんなに仲良かった兄に完全に避けられた痛みと、なにかが私に憑依して失言してしまう恐怖心と、この、矛盾するような2つの感情を、心の中でどう処理すればいいかわからずにいた。
結局、悩みに悩んだ末に出した結論は、「兄夫婦をできるだけ避けよう」ということだった。
こうして私は、長期連休に兄一家が実家に帰省したときは、挨拶だけしてすぐにアパートに戻るようになり、そしていつからか、もう近づくことさえしなくなっていった――。
つづく